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札幌北脳神経外科

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脳卒中予防
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おたる北脳神経外科(小樽市)

脳卒中は死亡率こそ減少していますが,発症数をみると三大成人病(脳卒中,ガン,心疾患)の中でトップを占めるわが国の国民病です.また今後の高齢化社会とわが国のいわゆる生活習慣病の増加により,今後は脳卒中の単なる1次/2次予防だけでなく,高リスクをすでに抱えてしまった働き盛りの人達にたいする 1.5次予防の重要性が言われております.年齢を経るというだけで脳卒中を発症する危険性はどなたにもありますので,ここでは脳卒中の危険因子と予防について述べたいと思います.

1)高血圧
高血圧は脳出血と脳梗塞に共通の最大の危険因子です.また,高血圧の既往がくも膜下出血の危険因子でもあります.血圧値と脳卒中発症率とは正の相関関係にあり,高血圧治療は脳卒中の予防にきわめて有効です.最近早朝高血圧の危険が言われており(脳卒中,心筋梗塞,大動脈解離,突然死),家庭での血圧の自己測定をお勧めします.朝起床後1時間以内(排尿後1-2分座って安静にしたあと食事服薬前),就寝前(1-2分座って安静)に測定してください.家庭血圧で135/80mmHg以上は高血圧とされております.減量5-20mmHg/10kg, DASH食(果物,野菜,飽和脂肪酸・総脂肪含有量の低い低脂肪乳製品)8-14mmHg,減塩(食塩6g/日)2-8mmHg,定期的有酸素運動(最低毎日30分)4-9mmHgと生活習慣の修正で降圧効果がありますが140/90mmHg(糖尿病,慢性腎不全を合併すれば130/80mmHg)以下にならないときは早期の薬物治療が必要になります.

2) 糖尿病:糖尿病は脳梗塞の確立された危険因子です.脳梗塞の発症頻度は非糖尿病にくらべ男性で3.3倍,女性で5.5倍高くなります.Ⅱ型糖尿病では血糖のコントロールでの脳梗塞の減少は言われていませんが,血圧,高脂血症,喫煙などの厳格な管理により脳卒中の発症が減少します.

3) 高脂血症:海外の研究では高コレステロール血症は脳梗塞の危険因子ですが,わが国では高コレステロール血症は脳梗塞の確立された危険因子とは言われていません(特に女性は).しかし,低HDL血症や低HDL/LDL比が脳梗塞の危険因子であることが報告されています.HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)の大量投与が脳卒中の発症予防に有効であり,食事療法を含めたスタチン治療が有用と考えられています.

4)喫煙:喫煙は脳梗塞の発症リスクを2-4倍高くする確立した危険因子です.欧米では男性では2.5-4.2倍女性では1.9倍のリスクになり,若年および喫煙量が多いほどリスクが大きくなります.また喫煙はくも膜下出血の危険因子でもあり,高血圧,過度の飲酒の合併によりその相対危険度は増大(高血圧10.5 倍,過度の飲酒6.0倍)することもわかっております.禁煙は脳卒中の罹患率および死亡率の低下に有用であり,脳卒中発症リスクは禁煙後2年以内に急速に減少し5年以内に非喫煙者と同じレベルになりますので積極的に禁煙を行ってください.

5)飲酒:欧米の研究では脳梗塞の発症は少量のアルコールで低下し大量では増加するJカーブ現象が見られております.出血性脳卒中(脳出血やくも膜下出血)の発症率と飲酒量は直線的正の相関関係があります.少量飲酒の脳梗塞発症低下の機序としてプロスタサイクリンの増加,HDL増加,フィブリノーゲンの低下,血小板凝集能の抑制などが報告されております.1日エタノール70g(日本酒3合)以上で非出血性1.7倍,出血性3.4倍,全脳卒中1.9倍の相対危険度です.飲みすぎは良くありません.

6)肥満:心筋梗塞の危険因子である肥満は,脳卒中発症では危険因子であるとする肯定的報告が多いですが,否定的な報告もあります.他の危険因子の予防という観点からご自身の理想体重(身長)×2.2を自覚し摂取カロリーと消費カロリーのバランスの取れた生活をお勧めします.BMI値については肥満の指標とすることに最近否定的な論文が出てきており,ウエスト囲またはウエスト・ヒップ比が最近指標になっております.

食事・栄養について
カロリー制限,食塩制限のほかの食事については,長期追跡のコホート研究から5種類の果物,野菜の連日摂取が非出血性脳卒中発症の相対リスクが69%になることが分かっております.とくに油菜科野菜,緑色野菜,柑橘類とそのジュースといった抗酸化作用物質の含まれる野菜(ファイトケミカル)の効果が高いとされます.魚の摂取で脳卒中が減少することも示されており,これは魚油に含まれるEPA,DHAなどの不飽和脂肪酸が血清総コレステロール値を下げHDLコレステロール値を増加させるためとされております.その他,高繊維食(食物繊維として7g/day)に拡張期血圧低下,血清総コレステロール,中性脂肪の低下の効果を認めています.

運動について
定期的な有酸素運動は心血管ばかりでなく非出血性脳卒中の発症リスク低下を運動量依存性に認めます(逆に身体不活動は相対リスクが2.7倍になります).その機序として他の危険因子のコントロール,血清フィブリノーゲン低下,血小板凝集能低下,HDLコレステロール値の上昇などが言われております.毎日30 分以上の中等度の運動(早歩き,ジョギング,サイクリング,プールでの水中歩行,他の有酸素運動)が推奨されます.

誘因の除去について
脱水,寒冷暴露・入浴,感染症などに注意する.非心原性脳梗塞は睡眠中,起床時に起こりやすくこれは夜中に脱水になり血液粘度が高くなり,また徐脈低血圧になるためと考えられております.夏にはとくに脱水に注意して水分を十分とることが肝要です.冬には寒冷暴露に注意してください.寒冷が血圧を上げることは証明されており心血管病による死亡は冬季に増加し,暖房や防寒の不十分なものほど高くなるといわれています.入浴も温度の変化に注意して,入浴温度は38 -40℃,一日のうち体温が上昇し血圧が安定する夕方に,入浴時間は短めで半身浴がいいです.冷えた体でいきなり熱い湯に入らず,脱衣所,風呂場の保温に注意してください.体調の悪いとき飲酒後,食後すぐの入浴は避けてください.入浴後の水分補給も大切です.インフルエンザの予防接種を行うと脳卒中の発症が減るという報告があります.また,慢性感染ではクラミジアの頚部アテロームプラーク内の同定もされております.急性感染関係でも炎症のマーカーである CRPと脳卒中を含む血管障害のリスクとの関連は明らかであります.アスピリンやスタチン製剤の薬効も本来の抗血小板,コレステロール低下の作用だけでなく,一部に抗炎症作用が関連しているとも言われています.4週間以内の感染症の既往がくも膜下出血の独立した危険因子です.いずれにしても,うがい手洗いを含めた感染予防は習慣づけてください.

薬物治療(2次予防)
出血性脳卒中の再発予防の薬剤治療は高血圧を中心に合併する危険因子の治療を行うことですが,非出血性脳卒中については非心原性脳梗塞の再発予防に抗血小板剤(アスピリン,チクロピジン,シロスタゾール,クロピドグレル)が用いられています.非投与群と比べアスピリン(75-150mg/day)で20- 30%の再発リスク低減効果が認めますが,その副作用により非投与群の2倍の出血性脳卒中リスクが生じます.心房細動などの心原性脳塞栓の再発予防にはワーファリン(PT-INR 2.5-4.0)にて再発リスク66%低減,アスピリン(300mg/day)にて15%であり,禁忌がなければワーファリン(PT-INR 2-3)が第1選択薬となりますが,76歳以上の高齢者ではPT-INRが2.6を超えると出血合併症が増えるのでPT-INR 1.6-2.6が推奨されております.

外科的手術による予防
非出血性脳卒中予防において世界的に確立された予防のための外科的手術は,症候性(2次予防)頚動脈狭窄に対して狭窄率70%以上あるいは50-69%でも再発の危険が高い場合,無症候性(1次予防)では狭窄率60%以上の場合での頚動脈血栓内膜剥離術です.この手術の合併症の基準として症候性で6%以下,無症候性で3%以下が求められていることより,合併症率(高いと見るか低いと見るか)のリスクを受け入れて手術を受けてください.保険適応外の治療としてステント留置術も行われておりますがその有用性の長期結果はまだ出ておりません.本邦でのJET syudyにおいて,73歳以下,非心原性軽症脳梗塞で主幹動脈(頚動脈,中大脳動脈の閉塞,高度狭窄)病変により脳血流の低下を認める(その他除外基準あり)という限定された例での頭蓋外-頭蓋内バイパス術の有用性が証明されましたが,その対象となる方は本当にごくわずかであります.人口の5-7%の方が保有するといわれているくも膜下出血(初回破裂での致死率20%ともいわれる)の原因でとなる未破裂脳動脈に対しての根治術(脳動脈瘤クリッピング,コイル瘤内塞栓術)については,未破裂脳動脈瘤の自然破裂率の低さ(0.7%/year)と,5-10%といわれている治療合併症率を考慮し,年齢,脳動脈瘤の大きさ形部位,その他疾患のリスクなどを総合的な判断で,ご自身で治療を選択するのが現在の状況です.未破裂脳動脈瘤の危険因子としての精神的負荷の検討もされており,脳ドックなどでMRAなどの検査をされるかたは安易に受けられず(みつかったとしても治療しないほうがいいということもありうる),ある一定の確率で一生破裂しないかも知れない(ご自身が知ったことにより破裂のリスクは上昇するかもしれない)脳動脈瘤が発見されるということを納得して検査を受けられてください.

脳卒中の予防の基本は生活習慣病を予防することと同等です。高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満、喫煙は動脈硬化を促進し、脳卒中や心臓病の危険因子としていつも強調されていますが、なかなか克服できません。しかし、日ごろの生活を管理することがなによりも大切です。また,脳卒中の予防における薬物および外科治療は一般の方々が思っているほどは効用が少なくかつリスクを伴います.薬を飲みながら喫煙といったまったく無駄ともいえるようなことがないように,日常のひとつひとつの自己努力が脳卒中予防には重要です.

医療法人社団北匠会 札幌北脳神経外科医師
遠山義浩 (脳神経外科専門医,日本脳卒中学会専門医)